中脘穴も体の腹側の正中線、任脈にあり、場所は臍の上4寸程度である。任脈にあるので、ここも死穴である。任脈には多くの急所が集まるが、そこには、脳神経の中で唯一腹部にまで到達する迷走神経がある。特に体にとって重要な役割を担うため、体を丸めて守ることができるようになっている。中脘穴はその迷走神経の腹の部分にある要である。心拍数を調整したり、血管の拡張、胃腸の蠕動などを司る、内臓の運動と副交感性の知覚の為の重要な神経である。胸とは違い腹は腹筋があっても、直接内部に拳脚が到達するため、強打すると内臓を損傷したり、それを守る為急激に迷走神経が暴走する。血圧の急激な低下は気を失い、死を招くことがある。
当て身としての適度な点穴は、衝脈を通じて丹田に集まっていく気をここでせき止め、逆流上昇させる。気が上昇し、下半身の動きを止める。気が上昇するので、のぼせたような感じになり、驚きやすくなり、視界が狭くなるので、虚が生まれる。心臓がドキドキし、急激な不安が訪れ平常心を無くす。
中脘穴は宗気を司り、衝脈を通じて腹の下部へ気が降りないため、胃や腸での消化不良が起こる。腸では便秘となる。活法として拿穴すると、そのような胃腸の改善と共に、気が上昇しすぎたヒステリーや精神錯乱、パニック、興奮、ストレス障害などを改善する。眠れないで食欲不振の時はここが効果的な経穴である。基本は拿穴である。しゃっくりもここを拿穴すると良く止まる。
兪穴は胃兪穴であり、活法としての拿穴は、下部へ気が降りすぎて、胃では胃酸過多、腸では下痢、上半身の気が下りすぎてやる気が失せたり、鬱状態になっているときにはここを拿穴して改善する。夏ばてなどにはここを拿穴する。ここを点穴術で拿穴すると、腕が上がらなくなるほどのダメージがある。又逆に、中脘穴への拿穴は脚が動かなくなる。このような相関関係により点穴術を理解するのは、武当派の太極拳の特徴である。
このような募穴と拿穴関係を理解しておくことで、套路を行うときに、自分の気の状態を量ることができる。同時に、太極拳の動作でそれを調整できる。気の状態が正常になると、内丹も正常になり、心身の健康は著しく維持される。楊式太極拳では行気と、点穴術の技法は不二であり、気が巡る套路は、そのまま点穴術の熟練に役立つ。
即ち、套路を行気満ちて、気順が行え、三節三尖で勁を発することができて、点穴術も最低限行えるのである。
■点穴術と拿穴術の招式(運用法)
※門下の自宅稽古のために、練習済みの運用法をおいおい掲載するようにしています。