近代の太極拳では、なぜか「捋」が一般化しているようですね。
四正手の「扌履」この字は現代の字典の中にも、コンピュータの中でもこの字の番号がありません。従って、このように手へんと履という字を組み合わせて表示していますが、中国では太極拳が発祥した頃に太極拳のために特に創造された文字です。その文字の構造によって、会意文字の範疇に属するもので、手へんの文字として、1つの動作で手足全体で履の動作を行います。
扌履勢は、手と足が一致して、履という動作を行うのが自然です。扌履勢は手の案内によって、相手を足とみなし、空の自分の靴へはめ込んでいくような化の技法です。こちらの退いた状況に相手の実を取込、相手の空(靴)に自分が進み入っていく。このような化の動きを表すのが扌履勢です。これが、「「引進落空」の技法です。
今「扌履」の字を誤って「捋」という字が使われていますが、1つにはコンピュータで多分タイプライターを打つのに便利であり、また、「捋」には「しごく」と言う意味もあるので、扌履勢を使用した擒拿術の「捋」という技法の姿から、単にしごいているように見えたので、近代に誰かが間違えて当てはめたものでしょう。しかし、太極の陰と陽の入れ替わりの化勁を表した「扌履」は「しごく」という行為で表すことはできません。
いつごろから、このような字を当てられたかは定かではありませんが、扌履勢は「引進落空」引き込んで導き、相手の力を空に落とす。すなわち、空の靴に相手の足を引き込み、相手の空の靴に入っていく大切な太極円転の易の技法です。すなわち、四正手の扌履勢は「扌履」であり、「捋」は間違いであるといえます。
武当派の太極拳の世界ではよく知られていることです。