4次元の太極拳

 太極拳は十三勢と呼ばれます。

十三の勢には、まず四正手があります。

四正手は、右攬雀尾では、掤は進行方向に向かって右前上から扌履は左後下、擠は前、按は後下から前と、右交差の3次元を描き、左の攬雀尾で左交差の3次元を描き、幅、奥行き高さである空間を全て網羅します。身の幅、眼の奥行き、手の高さの三尖で空間を描くということです。

そして四隅手ですが、野馬分鬃では、靠肘挒で因縁果の三節になり、現在から未来への時間軸を構成しています。後ろ手の採はその現在を身の中心線とすれば、三節に伴う過去の時間を表しています。靠肘挒の勢は採勢が力点となっているのです。そして中心線が支点、そして靠肘挒が作用点です。靠肘挒と進む長勁は後ろ手の採勢が力点となり、身体の中心線が重要な支点として発勁されます。

このように、四正手(空間)と四隅手(時間)が合わさって4次元という時空を構成します。
この理がわかると、四正手には四隅手の三節、四隅手には四正手の三尖が備わり、始めて4次元としての時空を備えた武道になるのです。
理論的には難しく言っていますが、身を持って太極拳の武道を経験すると、いつかはこのことがはっきりと理解できるようになります。

そして、そこに五行という方向が合わさって十三勢になります。3次元4次元には前後左右の概念がありません。まず、中定にいるのが自分であり、体が前を向いている、これで始めて前進後退右顧左盼という概念ができあがるのがわかるはずです。

このように4次元を制覇する人間(前後左右がある者なら人間と限らず何でもですが)と言うことになります。

以上のとおり、時空を制覇して現実的に生きる者の勢、これが十三勢です。

太極拳は空間を制覇し、時間を制覇し、そして人間として万象を制覇するというところから十三勢と名付けられました。
そしてその制覇は現実的で、心身を使って太極拳の基本勢としてできあがっています。

その十三勢を発見した張三豊または王宗岳らの武当派の太極拳では、古くからこの十三勢を基本に多くの型があります。

古くからの武当太極拳の古式では108式もあり、それから近代になってその108式を基にして、新らしく武当太極拳108式も生まれました。その武当太極拳108式は、楊家太極拳の楊露禅により改編されて楊式108式となり、楊澄甫により編成がまとめられ85式となりました。しかしながら、十三勢は基本勢であり、全てに貫かれています。これが時空と万象の理であるから、名付けて太極なのです。

古式108式には、纏手八卦掌や独立八卦掌などの型もあります。そして武当山にいる生き物たちの動きを備える形意拳の動きもあり、当然ながら歩法や身法で五行拳の動きもあります。古式太極拳には八卦掌、形意拳、五行拳の動きが全て含まれています。

この貴重な武当太極拳の108式も、108式などに編成される前の古式の太極拳(太極拳とはまだ言っていませんでした。武当拳法。内家拳法。太極拳法などと呼ばれていました。※カテゴリーの「内家拳」とは違います。)の型も多く残っています。
しかしながら全ては以上の十三勢の理論で構成されているのです。生き物たちも中心と前後左右があるのだから、五行があり、時空に生きているのだから四正、四隅があるのです。

このように、4次元に生きる人間の十三勢を理解でき、またそれを制覇できれば、太極拳は神明に達するのです。

これを知るためには、まずそれらが備わった太極拳の套路と武道の練習を、道を誤らずやり続けることです。

経験という膨大な情報が、これらを全て解き明かしてくれます。その時には全てが明らかになります。それを神明と言います。

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